2025年10月11日【人生の楽園】で新潟県上越市・高田の雁木通りに、温かな夫婦の夢が息づく妻の西脇美智子さんが営む喫茶店「マリキータ」と、夫・直行さんが打つ「そば処なおじろう」の二つのお店が紹介されます。
ともに70代で始めた挑戦は、多くの人の心を打ちました。子育てと介護を乗り越え、古き良き町家を再生した喫茶と蕎麦の店。そこには、雪国の人々が支え合う「雁木」のような夫婦の絆がありました。この記事では、放送内容をもとに、二人の物語とお店の魅力、そして現地への行き方や注意点を詳しく紹介します。
喫茶店「マリキータ」と「そば処なおじろう」への行き方は?
☕ 喫茶マリキータ(Marikita)
- 住所: 新潟県上越市仲町6丁目1-1(雁木通り沿い)
- 営業時間: 10:30〜18:00
- 定休日: 月・火曜日(臨時休業あり)
- 電話番号: 08056962709
- 駐車場:7台あり
- 紹介サイト:cocola.jp – 上越エリア情報サイト
- 掲載メディア:&Komachi グルメ掲載ページ
🍜 そば処 なおじろう
- 住所: 新潟県上越市仲町6丁目1-1(喫茶マリキータ奥)
- 営業時間: 11:00〜15:00
- 定休日: 月・火曜日
- 電話番号:09024210949
- Instagram:Instagram投稿ページ
- 食べログ:食べログ店舗ページ
- HAMONI 掲載ページ:hamoni.jp – 店舗紹介
📍 周辺ナビ・アクセス情報:高田駅・車・駐車場からの行き方ガイド
喫茶マリキータとそば処なおじろうは、新潟県上越市仲町6丁目、雁木通り沿いの町家にあります。最寄り駅はえちごトキめき鉄道の高田駅。改札を出て仲町方面へ向かい、雁木通りを歩くこと約10分。雪国特有の屋根付き通路を抜けると、木の格子が印象的な町家が見えてきます。手前がカフェ・マリキータ、奥がそば処なおじろうです。
車の場合は上越高田インターチェンジから約10分ほど。国道18号線から高田市街に入り、「仲町六丁目」交差点を目印に雁木通りへ進むと分かりやすいです。ナビ設定は「上越市仲町6-1-1」で検索してください。
駐車場は店前には少なく、提携先を利用する形です。店舗斜め前の山口建設駐車場に2台、まるやす前駐車場に4台分が確保されています。また、高田駅前立体駐車場の駐車券を提示すると、30分無料券がもらえるサービスもあります。満車時はこの立体駐車場の利用がおすすめです。
歴史ある雁木通りは車幅が狭い区間もあるため、運転の際は徐行を心がけてください。特に冬季や観光シーズンは歩行者も多く、周囲への配慮が大切です。
上越市・高田の雁木通りとは?雪国が育んだ城下町の風景
新潟県上越市の高田は、雪国の暮らしを象徴する「雁木(がんぎ)」が残る町として知られています。江戸時代から続く城下町で、商家の軒先を連ねた通りには、人と人が支え合って生きてきた雪国の知恵が息づいています。冬になると数メートルもの雪が降り積もりますが、雁木のある通りでは、屋根付きの歩道を通って安全に移動ができるのです。これが地域の人々にとっての“助け合いの象徴”でした。
高田の雁木通りは、総延長16キロメートルを超えるとも言われ、全国でも類を見ない規模を誇ります。商店や町家が軒を連ね、木のぬくもりと雪景色が調和する光景は、訪れる人の心を温めます。古い建物を活かしたカフェや雑貨店が増え、今では「歩いて楽しむ町」として人気を集めています。喫茶マリキータとそば処なおじろうも、この歴史ある雁木通りに寄り添うように生まれました。雪国の暮らしと人情、その温もりを感じられる場所です。
妻・美智子さんが叶えた夢の喫茶店「マリキータ」
喫茶マリキータは、木の香りがほのかに漂う落ち着いた空間です。カウンター越しに美智子さんが笑顔で迎えてくれるその店は、長年抱き続けてきた「喫茶店を開きたい」という夢の結晶でした。子育てや介護を経て70代での開業。背中を押したのは、介護施設で出会った高齢者の「やるなら今だよ」という一言だったといいます。店名の「マリキータ」はスペイン語で“てんとう虫”を意味し、幸せの象徴。お店のロゴにも、その小さな希望のモチーフが描かれています。
店内には地元作家の陶器や絵画が飾られ、窓から差し込む柔らかな光が木のカウンターを包みます。人気のメニューは、自家製スイーツと香り高いブレンドコーヒー。時には季節の果実を使ったタルトや、雪国らしいミルクベースの温かいドリンクも登場します。お客様の多くが「ここに来ると時間がゆっくり流れる」と口を揃え、地元の常連だけでなく観光客も立ち寄る癒やしの場になっています。
夫・直行さんの「そば処なおじろう」開業ストーリー
そば処なおじろうは、夫・西脇直行さんが定年退職後に始めたお店です。もともと趣味で始めた蕎麦打ちは、友人や家族に振る舞ううちに評判を呼び「いつか自分の店を」と思うようになったそうです。妻の美智子さんが喫茶店を開くと聞き、「俺も挑戦してみようかな」と自然に口をついた言葉。それが夫婦二人三脚の新たな人生の始まりでした。
なおじろうの蕎麦は、地元産のそば粉を使い、香りと喉ごしの良さが評判です。打ち立て・茹でたてにこだわり、一日分を丁寧に手打ちします。定番のもりそばや天ぷらそばのほか、季節限定のきのこそばや辛味大根そばなど、上越の旬を楽しめるメニューも人気です。厨房の奥から聞こえる包丁の音、湯気の立ちのぼる香り、そして直行さんの朗らかな笑顔。蕎麦を通じて人とつながる時間こそが、彼にとっての生きがいになっています。「お客さんの『美味しかったよ』の一言が一番うれしい」と語る姿が印象的です。
町家を生かした一体型店舗──“別々だけど一緒”の空間
喫茶マリキータとそば処なおじろうが並ぶ建物は、雁木通り沿いに立つ築およそ百年の町家を改装したものです。細長い造りの奥行きを生かし、手前にカフェ、奥に蕎麦屋という配置にしました。扉を開けると、木の梁と土壁の温かみが残る空間が広がり、奥へ進むほど香ばしい出汁の香りが漂います。二つの店は仕切られていながら、どこかでつながっているような心地よさがあります。
昼には、蕎麦を食べたあとにマリキータでコーヒーを飲む人も多く、自然とお互いの店が支え合う形になりました。妻の喫茶、夫の蕎麦屋──別々の夢を持ちながらも、一つ屋根の下で寄り添う二人の姿がこの建物そのものに重なります。雪の日には雁木の屋根が人々を守り、この町家が夫婦の歩みを包み込みます。歴史ある町並みと共に、二人の人生が静かに息づく場所です。
訪問時の注意点と季節ごとのリスク対策
上越市・高田の町は四季の変化がはっきりしており、訪れる季節によって注意点が異なります。特に冬季は積雪と路面凍結が起こりやすく、車も徒歩も滑りにくい靴や時間の余裕を持つことが大切です。雁木通りは屋根付きの通路が雪を防いでくれますが、段差や氷が残る箇所もあるため注意が必要です。
また、町家は築百年を超える建物を改装しており、入口付近に小さな段差があります。車椅子や足元に不安のある方は、事前に店舗へ連絡すると丁寧に案内してもらえます。
イベント時には、花火大会や祭りの影響で通行止めになることがあります。特に高田公園周辺や仲町通りの交通規制は毎年実施されるため、上越観光Naviなどの最新情報を確認すると安心です。
営業時間や定休日は、季節や天候により変更される場合もあります。訪問前に電話で営業状況を確認しておくと確実です。喫茶マリキータは10時〜18時(夜営業あり)、そば処なおじろうは11時〜15時が目安。月曜・火曜が定休日です。
雪国らしい厳しさの中にも、雁木のぬくもりや町家の静けさを感じられるのがこの地域の魅力。安全に配慮しながら歩けば、冬の上越もきっと心に残る旅になります。
雁木通り散策とおすすめ周辺スポット
高田の雁木通りは、喫茶マリキータやそば処なおじろうを訪れたあとにゆっくり散策するのにぴったりのエリアです。古い町家を改装した雑貨店やギャラリー、地元の和菓子屋などが並び、歩くだけで上越の暮らしと文化に触れられます。
徒歩圏内にある「高田公園」は、かつての高田城跡を中心に整備された市民の憩いの場で、春には桜、秋には紅葉、冬には雪景色が美しいことで知られています。堀に映る城の姿は四季ごとに表情を変え、訪れる人の心を和ませます。
また、少し足をのばすと「旧師団長官舎」や「町家交流館高田小町」など、歴史を感じる建築もあります。地元の人々が守り続ける文化の香りに包まれ、歩くほどに時間がゆっくりと流れていきます。
マリキータのコーヒーで心を温め、なおじろうの蕎麦でお腹を満たしたあと、雁木の下を散歩する──そんな過ごし方こそ、この町の魅力を最も感じられる時間です。
🗺 上越・高田 雁木通り周辺観光案内リスト
🚶♀️ 徒歩で楽しむ観光スポット(マリキータから徒歩5〜15分)
スポット名 | 所要時間 | 見どころ・特徴 | 備考 |
---|---|---|---|
高田公園(高田城址) | 徒歩10分 | 日本三大夜桜の名所。堀と城が美しい歴史公園。 | 春は桜、秋は紅葉、冬は雪景色が見事。 |
町家交流館 高田小町 | 徒歩7分 | 町家建築を活かした観光案内・休憩スポット。 | 地元作家の展示やワークショップあり。 |
旧師団長官舎 | 徒歩10分 | 明治期の洋風建築。赤レンガと木造が融合。 | 上越市文化財。撮影スポットにも人気。 |
ゑしんの里会館(高田城前) | 徒歩15分 | 上杉謙信の母「仙桃院」ゆかりの展示施設。 | 歴史好きにおすすめ。 |
雁木通り商店街 | すぐ | 約16km続く日本最大級の雁木通り。 | 冬は積雪の中を歩ける「雪国の回廊」。 |
🚗 車で立ち寄りたい周辺エリア(車で10〜20分)
スポット名 | 所要時間 | 特徴 | 駐車場 |
---|---|---|---|
上越市立水族博物館 うみがたり | 車15分 | 日本海を望む人気水族館。イルカショーが好評。 | 有(約400台) |
直江津港エリア | 車20分 | 港町の風情と新鮮な海鮮が楽しめる食のスポット。 | 有 |
春日山城跡 | 車15分 | 上杉謙信ゆかりの名城跡。登山道から絶景を望む。 | 無料P有 |
五智国分寺 | 車12分 | 立派な木造三重塔が圧巻。 | 無料P有 |
上越市立歴史博物館 | 車10分 | 高田城や雪国文化を学べる常設展示。 | 有 |
🍴 ランチ・カフェ・お土産スポット
店名 | 徒歩/車 | 内容 | 一言ポイント |
---|---|---|---|
喫茶マリキータ | 徒歩0分 | 手作りスイーツとブレンドコーヒー | てんとう虫のロゴが目印。 |
そば処なおじろう | 徒歩0分 | 手打ちそばと天ぷら | 奥の座敷で静かな時間を。 |
甘味処 相馬屋本店 | 徒歩5分 | 老舗和菓子屋。看板の「栗饅頭」 | 地元土産に人気。 |
パン工房ル・レクチェ | 徒歩8分 | 県産果実ル・レクチェを使ったパン。 | 朝カフェにもおすすめ。 |
道の駅あらい | 車20分 | 上越観光の玄関口。お土産・食事充実。 | 休憩にも最適。 |
🌸 季節のおすすめイベント
季節 | イベント | 開催場所 | 内容 |
---|---|---|---|
春 | 高田城百万人観桜会 | 高田公園 | 約4000本の桜が咲く日本有数の桜まつり。 |
夏 | 上越まつり | 仲町通りほか | 神輿・屋台が練り歩く伝統行事。 |
秋 | 城下町高田 花ロード | 雁木通り一帯 | アートと花で町を彩るイベント。 |
冬 | 雁木通り雪あかり | 高田市街 | ロウソクの灯が雪景色を照らす幻想的な夜。 |
“人生の楽園”に見る夫婦の生き方──70代の挑戦が教えてくれること
人生の楽園で紹介された西脇夫妻の姿は、多くの視聴者に勇気を与えました。子育てと介護を終え、70代になってからそれぞれの夢に挑戦した二人。そこには「年齢に関係なく、心の中にある小さな火を消さないこと」の大切さが映し出されています。
夫婦それぞれが自分の時間を大切にしながら、互いを尊重し、支え合う姿。喫茶と蕎麦という異なる店でありながら、ひとつの町家で調和しているその関係は、まさに「別々だけど一緒」という言葉にふさわしいものです。
店の外には、雪から人を守る雁木があり、店の中には、長年連れ添った二人の穏やかな空気が流れています。彼らの暮らしぶりは、雪国の厳しさの中にこそある温もりを思い出させてくれます。
人生の後半を迎えても、新しい挑戦はできる。誰かの言葉に背中を押されて、また一歩踏み出せる。西脇夫妻の物語は、そのことを静かに教えてくれます。

まとめ|夫婦で築く第二の人生、雁木のように寄り添う日々
上越の町に流れる時間はゆっくりで、どこか懐かしさを感じます。西脇夫妻が選んだこの場所には、人と人とが寄り添い、助け合う雁木の文化が根づいています。喫茶マリキータとそば処なおじろうという二つの店は、まさにその象徴のようです。
別々の夢を持ちながら、一つの屋根の下でお互いを支え合う。そこには“夫婦で生きる”という形の理想が静かに息づいています。子育てと介護を乗り越え、70代で新しい扉を開いた二人の挑戦は、誰の人生にも希望の光を灯してくれます。
この町の人々がそうであるように、二人もまた、雪の日も晴れの日も歩調を合わせて歩み続けてきました。雁木のように支え合う暮らしの中にこそ、本当の豊かさがあるのかもしれません。上越という土地が与えたご縁が、二人の物語をより深く、あたたかいものにしているのです。
“雪国の優しさ”と夫婦の物語
雁木通りを歩いたとき、雪国の人々の知恵と優しさが形になっているように感じました。長い冬を越えるために互いを思いやり、助け合う文化。その精神が、今もこの町の暮らしに息づいています。喫茶マリキータの灯りと、そば処なおじろうから漂う湯気。そのどちらにも、人の心を温める力がありました。
美智子さんの穏やかな笑顔と、直行さんのまっすぐな手仕事。二人の姿を見ていると、人生の豊かさは“何を持つか”ではなく“どう生きるか”にあるのだと気づかされます。夢を追うのに遅すぎることはない。雪が降り積もるように、日々を重ねることで心の景色も少しずつ美しくなるのだと思います。
帰り道、雁木の下でふと振り返ると、灯りのともる町家の奥から笑い声が聞こえました。人のぬくもりが残る街。それが上越であり、西脇夫妻の生き方そのものです。
雁木のまちに生きるということ──夫婦の店が伝える“続ける力”
上越の冬は長く、静かで、厳しい。雪が音を吸い込み、町全体が白い息をしているようです。そんな日々の中でも、マリキータとなおじろうの灯りはいつも変わらずに灯っています。通りを歩く人の背中をやさしく照らすその光に、訪れた人はどこか懐かしさを覚えるのです。
美智子さんが店を開いたのは、長い年月をかけて積み重ねてきた日々の延長でした。家族を支え、介護に向き合い、自分の時間を後回しにしてきた年月。そのすべてが「いま」に続いています。喫茶店という空間は、単なる仕事の場ではなく、自分の人生を静かに取り戻す場所。コーヒーを淹れる手元には、これまでの想いと祈りが込められています。
一方で、直行さんの蕎麦打ちはまるで修行のようです。朝の仕込み、粉の状態の見極め、湯の温度と湿度の調整。蕎麦を打つたびに、その日の自分と向き合う時間が流れます。時に思うようにいかない日もありますが、そんな日も含めてすべてが“生きている証”だと彼は言います。
二人に共通しているのは、「続けること」を大切にしている点です。華やかな成功ではなく、日々を誠実に積み重ねる。その姿は、雪に覆われながらも毎年春を迎える上越の自然そのものです。
訪れる人を迎える町──地域とともに育つ店
マリキータとなおじろうには、地元の人だけでなく遠方からも多くの客が訪れます。テレビ放送を見て足を運ぶ人もいれば、旅行の途中にふと立ち寄る人もいます。誰が訪れても変わらないのは、店に流れる穏やかな空気です。初めての人でも、まるで常連のようにくつろげるのは、美智子さんの柔らかい声と、直行さんの温かい「いらっしゃいませ」があるからでしょう。
近隣の商店とも自然なつながりが生まれています。豆腐屋の厚揚げを使ったそばのトッピング、地元農家から届く旬野菜を生かしたカフェメニューなど、町全体がゆるやかに関わり合う循環ができています。雪国の暮らしは決して楽ではありませんが、そこには「誰かを支える喜び」があります。その感覚を大切にしているからこそ、この二つの店は地域に根づき、愛され続けているのです。
訪れる前に知っておきたい、旅人の心得
この店を目指すなら、ぜひ時間にゆとりを持って訪れてください。高田の町は車のスピードではなく、歩く速さで出会う場所です。冬の朝に降る粉雪、軒先からこぼれる光、雁木の下で交わされる挨拶。そうした小さな瞬間を味わうことこそ、旅の醍醐味です。
また、地元の方が守ってきた町並みは繊細です。写真を撮るときは人の流れを妨げず、車で訪れる際は静かにエンジンを止める──そんな小さな気遣いが、雁木の景観を守ります。お店の前に雪が積もっている日には、通りすがりの人が雪かきを手伝うことも珍しくありません。上越では、それが自然な優しさの形なのです。
マリキータの灯りがともる夕暮れ、奥のなおじろうからは出汁の香りがふわりと漂います。その香りを追うように入っていくと、温かな湯気と笑い声が迎えてくれます。夫婦の店を包むのは、豪華な装飾ではなく、積み重ねた日々のやさしさです。
「夫婦で一緒にお店をするって大変じゃないですか」と尋ねると、二人は顔を見合わせて笑いました。「たまにけんかもするけど、すぐ忘れちゃうんです」その言葉に、この店の空気のすべてが詰まっています。
いつか雪がやみ、春の風が雁木を通り抜けるころ。通りを歩く人々の間に、また新しい出会いが生まれるでしょう。マリキータとなおじろうは、そんな町の“心の休憩所”として、これからも変わらずそこにあり続けます。
雪の町で紡がれる日々──上越・雁木通りに生きる夫婦の物語
上越市の冬は、空から静かに雪が降り積もる季節です。通りを覆う白い景色の中で、マリキータのガラス越しに見える灯りは、まるで心の火のように穏やかに揺れています。店内にはコーヒーの香りが漂い、外の寒さを忘れさせてくれるぬくもりが広がります。
カウンター越しに話しかける美智子さんの声はやわらかく、初めての人にも距離を感じさせません。「おひとりですか?ゆっくりしていってくださいね」と笑うその姿に、長い人生を重ねてきた人の優しさがにじみます。
隣のなおじろうでは、直行さんが黙々と蕎麦を打っています。麺を切る音、湯の立ちのぼる音、そして椀を置く音が、まるで店の呼吸のように響きます。昼時には湯気と笑い声が混ざり合い、町家の奥にあたたかい空気が満ちていきます。
通りの商店主や近くの住民、そして毎日のように立ち寄る常連たち。喫茶と蕎麦という異なる空間が、一つの屋根の下でゆるやかにつながっているのがこの店の魅力です。「喫茶店で一息ついたあと、奥でお蕎麦を」といった流れが自然にできており、地域の人々の暮らしの中にすっかり溶け込んでいます。
上越の町には「助け合う文化」が根付いています。雪をよけるためにできた雁木は、ただの建築ではなく、互いを思いやる心の形。マリキータとなおじろうもまた、そうした思いやりの延長線上にあります。常連のひとりはこう話します。「この店は、来るたびに気持ちが軽くなる。喫茶で一息ついて、蕎麦を食べて帰ると、また明日も頑張ろうと思えるんです」。それは、料理や空間だけでなく、夫婦の温かな人柄が作り出す“居心地”の証です。
旅で訪れる人にとっても、この場所は特別です。高田駅から続く雁木通りを歩けば、冬の冷たい風の中にも人のぬくもりを感じます。町家の軒下には、古い看板や行灯が並び、まるで時が止まったような風景が広がっています。途中で雪を払う仕草をしながら立ち止まり、マリキータの窓越しに灯りを見る。その瞬間に心がほどけていくのを感じる人も少なくありません。
春になれば、通りの雪が溶け、木造の壁が太陽の光に照らされます。店先には季節の花が飾られ、喫茶のカップにも春らしいデザインが並びます。美智子さんが選ぶ器は、すべて「お客様に季節を感じてもらいたい」という思いから。食器や飾りにまで丁寧な心遣いが込められています。
夫婦の暮らしは、決して派手ではありません。朝は仕込み、昼は接客、夜は片付け。閉店後、二人でその日の出来事を語り合いながら、翌日の準備をします。「今日も一日ありがとう」と笑い合う時間が、何よりのご褒美だと二人は話します。
この店を訪れた人が感じるのは、味や空間だけではなく「人としてどう生きたいか」という問いかけかもしれません。夢を叶えるのに年齢は関係ない。大切なのは、心の中にある“やりたい”という灯を絶やさないこと。マリキータのカウンターに並ぶカップのひとつひとつに、そんな思いが重ねられています。
もし訪れるなら、ぜひ時間をたっぷり取ってください。急ぎ足ではなく、歩く速さで町を感じながら。雁木の下をくぐり、喫茶で温まり、蕎麦で締める。それだけで心が満たされる旅になるはずです。上越という土地は、雪が多くて寒いのに、なぜか人の心はあたたかい。夫婦の店はその象徴です。
人生の道の途中で立ち止まり、もう一度自分の夢を思い出したいとき。誰かに優しくされたいと思うとき。そんなときに訪れたい場所が、ここ上越の雁木通りにあります。喫茶マリキータとそば処なおじろうは、今日も変わらず灯をともして、訪れる人をやさしく迎えてくれるでしょう。

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